MLS -- Mitani Landscape Studio, Inc.--

PROJECT 三谷康彦の仕事

福田美術館

コンセプト
【川の静水面を借景として庭を実際より広大に】
〇「嵐山の自然景観の歴史の流れ」 ー 京都の古来からの観光スポット「嵐山」の緑資源である森林や竹林、渡月橋、桂川の水音、そして緑のスカイラインを形成する森林・・・。日本の国土面積の約2/3が森林であり、その森林の1/3が国有林、国土の約2割が国有林で形成されている。国有林の歴史は、明治2年の版籍奉還によって、明治政府が旧幕府有林を承継したことにより成立。明治4年に「社寺上知令」により、旧社寺領をも国有林に編入,また明治6年~14年に掛けて、地租改正に伴って行われた土地の官民有区分により境界画定。村持ち入会林を国有林に編入。その他、購入、交換、所轄替えなどにより編入された結果として、現在の観光地嵐山の背景の緑風景や、山脈の厚みのあるスカイラインを形成している。西山に沈む夕景時の静けさは、心が和む至上の美しさである。
〇「個人的な記憶の中の原風景」 ー 筆者が北野白梅町にある中高一貫教育の学者に通っていたころには、自転車に乗って嵐山の渡月橋辺りまで、友人たちと手こぎボートびに来たモノだ。当時は尾根筋に下枝のない、幹立ちが赤く美しいまっすぐなアカマツが疎らに繁り立ち、とてもよい風情であったのを鮮明に記憶に留めている。
〇「原風景構成エレメント ー アカマツ」 ー やがて昭和30年代後半:嵐山や西山山系での松くい虫被害が顕著になり「尾根松、谷杉、中檜」の風景が失われつつある現在、失われた風景の構成要素としてのアカマツを庭の植栽の主たる高木とすることに思い当たり、その材料入手先を、群馬県嬬恋村のアカマツ林から入手を決め、念のために、マツの材線虫に一切犯されていない母樹入手のために、ワクチン検査を候補樹全数で行い、健全なアカマツ候補樹のみを取り寄せて、庭園の主骨格樹種として使用したのである。
〇「マツ枯れ病対策に関しての対応策」 ー 候補樹のみを取り寄せて、庭園の主骨格樹種として使用したが、結果的には、群馬嬬恋のアカマツは、マツの材線虫に犯された個体は皆無だったのは、ラッキーというしかない。筆者の想定ではアカマツ林エリア冬期の気温の低下が著しく厳しく、幼虫が越冬できない程気温が下がるのが幸いしていると想定される。多くのアカマツを、群馬県嬬恋村から移植して、和の山野の美しい風景構成に成功しているし、嵐山の福田美術館の庭園・Landscapeでも、京都西山地域の風景保全に関しては一定程度成功していると自負している(地球温暖化に対しての対策を講じ始める必要性)。
〇「川の水音の効果と効用」 - 桂川上流域、亀岡方面から、絶景保津川を流れ落ちる大堰川水面は、渡月橋辺りで堰が構築されて、静水面と、急流部分とに水の表情が、大きく変化することに気づき、旧天竜寺への参道であった道により、静水・静謐な西側敷地が「美術館用地」と定め、水音が多少煩い東側敷地がホテル用地と、自然の水音や風景を取り込みながら、庭園意匠を試行錯誤することになった。川の静水面に映り込む対岸嵐山のサクラ、モミジなどを四季の移ろいを美術館の庭の平池に写し込み、途切れることのない水を大切に考えた静かな庭が、美術館のランドスケープとしての一つの大切なここでしか有り得ない川の広大な広がりを借景としたテーマとなったのである。
基本情報
場所:京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16
竣工:2019年2月
規模:1,986.39㎡ (敷地面積)
設計監理:安田アトリエ、金箱構造設計事務所、イーエスアソシエイツ、環境トータルシステム、キルトプランニングオフィス、META STUDIO
ランドスケープ:三谷康彦(MLS, Inc.)